2014年1月21日火曜日

歴史と愛国心 - Japanese history and love for Japan

先日愛国心と教育のことについて書いたけれど、今回は新聞からおもしろい記事をみつけたので追記をしたい。(English translation comes at the end of the article.)


愛国心をはぐくむことを考えるとき、日本のことを知ればもっと日本を好きになるのに、と思ってやまない。これは、いいところも悪いところも含め、日本人が「事実=facts」を知ることが必要だ、という考えに行きつく。日本のことが好きか否かを決めるとき、日本がどんな国なのか、いいところも悪いところも知らなければ、結論はうやむやになるだけだ。これは例えば人を好きになるということに似ていると思う。その人のいいところはもちろん好きだが、悪いところも理解し受け入れることで情が深まるというものだ。


私は戦争中の誇れざる事実を歴史の授業で避けて教えていることが、「愛国心の希薄さ」に関係しているのではないかと思う。戦争体験者たちから次世代へと社会の担い手が変わり、日本の歴史の中で何が起きたのか、という記憶が、だんだん薄れてきているという現代の世相もあるかもしれない。だからこそ、歴史教育の中で戦時中何が起きたのか、を若い世代が認識することは今後の日本の将来にとって大切なことだと思う。


この件について、日本研究者ジェラルド・カーティス氏の考えが私のものと似ていたため、ここで紹介したい。氏は今回の阿部首相による靖国神社参拝の件について述べている。

以下ジャパン・タイムズの記事から抜粋する。
(ここからは記事の英文を私が訳したものです。間違いがあったらご指摘をお願いいたします。)


「暗い過去をつぐなうことに誇りを持とうーアメリカの研究者日本に向けて語る」


「カーティス氏はこうアドバイスする。『誇れざる事実を認めるということに誇りを持ちなさい。』歴史をみつめなおしてきた他の国々のように。例えばアメリカでは、アメリカ先住民への迫害について、またはソビエト連邦とアメリカ合衆国の冷戦がベトナム戦争に発展したという不愉快な事象を学校教育の中で取り扱っている。」

(中略)

「『日本では歴史の記憶は薄れ、中国と韓国では歴史の記憶がより濃くなっている。』とカーティス氏は言う。他の戦死者たちと共にA級戦犯が祀られている靖国神社へ政治的最高指導者が参拝することの歴史的なつながりを今の日本の若者たちは知らない。靖国神社は日本国の神道崇拝の現れと軍事国家の象徴であることを効果的に示すために使われた。」

(中略)

「カーティス氏は続ける。『阿部氏はこう、公に発表しなければならない・・・戦前に日本が行った事柄につながるような価値観は今日の日本において存在しない。』その価値観というのは、『植民地保有国になること、近隣諸国に対し武力を行使すること、そして若い女性たちを日本兵士の性欲解消のために集める、こういったことを容認するような価値観である。』とさらに詳しく述べた。」

(中略)

「『(阿部氏)本人が信じる信じないに関わらず、そのような過去をふりかえる内省がなければ、他にどのようにして(日中韓の靖国神社)問題を本当の意味で改善するのか私には先が見えない』と教授は語った。」

抜粋終わり


靖国神社参拝問題についての中国と韓国の反応を見る限り、私たち日本人が彼らに対しひどいことをしたということが伝わってくる。ただその反応の過激さを妥当か否かと判断するための知識は今の日本人の間にどれだけ浸透しているのだろうか。私はどう考えていいのかわからない。何が起ったのかを知らないから、どう反応していいのかわからないのだ。

アメリカには「ヒストリーチャンネル」というものがある。このチャンネルは一日中ずっと歴史的な事柄についての番組を放送するものだ。かなり頻繁に日本対アメリカの第二次世界大戦の戦況について放送されることにまず驚く。(もちろん、たいがいは日本人の卑怯な真珠湾攻撃について、が多いのだが。)次に驚くのは、日本の歴史の授業で習ってきた事柄とは微妙に違った内容が放送されるということだ。記憶があまり定かではないのではっきりした例を挙げることはできないが、私の感想は「物事には表と裏があるように、同じ第二次世界大戦についても日本側の意見もあるし、アメリカ側の意見もある」ということだった。

しかし、考えてみれば、日本人だって、アメリカ側の言い分を知っておくべきではないだろうか。きっと真実は(そんなものがあるのだとすれば)、日本の言い分とアメリカの言い分の間にあるはずだ。

一度とても恥ずかしい思いをしたことがある。これは第二次世界大戦中に起きた「従軍慰安婦問題」に関することだった。アメリカ人の友人に詳しく聞かれ(慰安婦たちはだまされて連れて来られたのか、性的奉仕は強制的なものだったのか)、何も知らない自分に顔から火のでる思いだった。

私の記憶の中では、歴史の授業中に習った従軍慰安婦問題は表面的に扱われており、実際何があったのかには全く触れられていない。ただ私が覚えているのは、「従軍慰安婦問題」は今も解決されておらず、第二次世界大戦中にあったことだ、ということのみ。大学入試の過去問にも「従軍慰安婦問題」はいつの時代に起きたものか、どんな歴史的事柄に関係して起きたのかということが問われるだけだった。実際のセンター試験でこの問題があったかどうかは記憶に残っていない。

学校の教科書に当時の生々しい現実をどの程度記して義務教育で教えるか。昔、ニュースで歴史教科書問題について議論があったのをぼんやりと覚えている。ただ言えることは、従軍慰安婦問題に対する日本人の知識のなさは、被害にあわれたたくさんの女性たち、多くは日本軍に占領された国々の人々、そういった人々の負った傷に報いることができない。そして、この問題について世界という舞台で議論された場合、日本人である私には、いいも悪いも決めることができない。判断材料があまりにも乏しいのだ。これは大変つらいことだ。自分の国の立場を擁護することも、またはこちらの過ちであったと潔く認めこれからの改善策を提案することもできないのだから。これは、従軍慰安婦問題だけに限ったことではない。その他諸々の恥じるべき過去の事実が、オブラートに包まれ暗闇の中に置き去りにされている。

海外に出ると、日本の政治問題、歴史、建築、文化などいろいろなことを聞かれることが多くなる。きっとこれは私に限ったことではないと思う。日本人が他国の人と交わるということは、当然日本について聞かれることが多くなるということなのだ。質問をする人には、これらについて専門的な知識を知りたい、という意図はない。ただ、「私」が、または「日本人」がこれらのことについてどんな意見を持っているのか、というのが聞きたいのだ。従軍慰安婦問題や靖国神社参拝のような歴史的にも政治的にも世界的に問題になっていることを日本人が知らないという事実が、本当にそれでいいのか、と疑問に思う。

メディアの中で日本人が英語が話せない、と騒がれて久しい。英語ができるか否かを話し合う前に、まず、日本の世界に置ける位置、日本が何者なのかを考えなくてはいけない。そのためには、今社会の中で何が起きているのか、その事柄と歴史はどのように関係しているのか、これを知らずして、日本の国を弁護することは困難だ。外国人に日本について聞かれた場合、私だって日本のことを誇らしく語りたい。明白な事実を知りさえすれば、誇らしく思うことも、悪しきを受け入れ将来への希望を語ることもできるのに。いくら英語が話せたって、話す内容がなければ言葉は役に立たないのだから。

ただ単に、従軍慰安婦問題についても靖国神社問題についても自分で勉強すればいい、といわれればそれまでの話なのだけれど。




I wrote about national patriotism in Japan in my last posting.  I found a good newspaper article on the subject, so I would like to write a bit more.


When I think of how to foster patriotism for my own country, I feel strongly the need to learn historical “facts” including the good and the bad.  Without knowing the facts, passing judgment on a country is not appropriate.  It is kind of similar with people.  When you like someone, it means that you like his/her good personal traits, but also you accept and understand his/her bad habits.  Accepting the bad deepens the relationship even further. It might seem naïve to support a country only understanding its good points.

I think the main reason Japanese people have minimal affection towards their country is directly related to Japanese history classes/textbooks not explicitly discussing the unpleasant matters regarding Japan during WWII. 

An article from Japan Times presents a nice discussion, so I wanted to share with you.


Japan Times article
"Take pride in mending dark past, U.S. scholar tells Japan"

Quote

"He advised Japan to ‘take pride in admitting what you’re not proud of,’ just like other countries that have re-evaluated their pasts, including the United States, where schools address uncomfortable truths about issues such as the treatment of Native Americans, the segregation era and the Vietnam War."


‘There is a loss of memory in Japan and an intensified memory in China and Korea,’ Curtis said, adding that Japanese youth now are unaware of the historical context surrounding Yasukuni, where Class-A war criminals are honored along with the war dead. The shrine served as a potent instrument of state Shinto worship and a symbol of Japan’s militarism."


"’Abe has to come out and say . . . there is no room in Japan today for the values that led Japan to do what it did before the war,’ Curtis said, elaborating that they are the values that led Japan ‘to become a colonial power, to use force against neighboring countries, that accepted the recruitment of young girls to provide sex for Japanese soldiers.’


"’whether or not he believes it,’ the professor said. ‘Without that kind of reflection on its past, I don’t see how you can really improve the situation.’


Unquote


China and Korea’s reaction against Japan’s Yasukuni Shrine visit makes clear that China and Korea believe Japanese people did something awful in the past.  However, how much do we know about what we have done to them?  I do not know much.  Without knowing the facts, there is no way for us to decide how to react. 

In the U.S., there is a TV channel called History Channel.  They broadcast historical issues all day long, every day.  I was surprised how often they talk about WWII (They mostly talk about the attack at Pearl Harbor).  I was surprised they tell the story of the war in a slightly different content than what I have learned in Japanese history classes.  I cannot give you a concrete example now because I do not remember the details, but the impression I had at the time was:  there are always two sides of coin.  One sees the face and the other sees the tail.

If you think about it more carefully, though, it is important for us to learn the other side’s point of view as well as ours.  If the truth exists, it should lay somewhere between the two countries’ viewpoints.  

I have a personal experience about “comfort women” issue.  A couple of years ago some American friends of mine asked about this issue.  Those questions were very specific, whether Japanese solders raped those women, and whether those women were tricked to come to the camp.  I had no idea what really happened.  I was so embarrassed that I could not answer, and could not tell what I as Japanese think about this issue.   

Japanese history classes and textbooks discuss the comfort women issue, but only at a superficial level.   They do not talk about what really happened.  In my experience, when preparing for the college entrance examination I needed to know when the comfort woman actions happened, or which historical event “comfort women issue” is related.    

It is clear that lack of knowledge in Japan about “comfort women” and the other war related issues, does not do justice to the victims or help us explain our current government officials’ actions such as visiting Yasukuni Shrine. 

Living outside of Japan, there are so many times when I am asked to share my opinion about Japan.  It could be about Japanese politics, history, architecture, culture, etc.  I know I am not necessarily expected to give an answer like specialists on those topics, but I am asked what I think about the matter.  It shouldn’t be okay that many Japanese people, including myself, are unaware of a matter like “comfort women issue” and “Yasukuni Shrine visit” that are historically and politically prominent and help place Japan’s relationship with their neighboring counties.   

Recently Japanese media discusses Japanese’s poor skills of English.  Before we talk about Japanese people’s English skills, it is more important for people to understand who we are, where we come from, and where we stand.  If we do not have ideas and opinions to tell, language skills would not really matter.








2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

貴ブログ興味深く拝見しております。
カーティス氏は、戦後日本に強く影響を及ぼしてきた、所謂「ジャパン・ハンドラーズ」の
一員です。よって、氏の発言には何らかの政治的意図があることは明らかではないでしょうか。

靖国や慰安婦問題は、彼らにとっては日本・中国の関係を分析する上で、不確定要素の一つに
過ぎないのではないでしょうか。日本の歴史や愛国心などは、彼らにとってどうでも良いこと
でしょう。彼らにとっては、日本の行動がどのように中国に影響を与えるか。米国にとって
どのように日本を操作し、中国との関係をどうするかが死活的に重要なはずです。

まして米国は日本占領時、日本に慰安婦施設を設置しています。
http://p.tl/EQtG
東京大空襲や原子爆弾で無辜の民を大量殺戮もしています。
騒ぎが大きくなれば、自分たちの歴史の傷も広がる事でしょう。

進行中の問題、すなわちイラン、アフガンの戦争責任や、
無人機による民間人殺害のことも彼らは授業で教えているのでしょうか。

折しも、米国はグローバル企業以外は空前の不況。フードスタンプ受給者も過去最大と
なっています。基軸通貨を押さえ、情報を押さえ、戦争で経済を回してきましたが、
その手も限界に来つつあります。さらに盗聴が暴露し、同盟関係も危険な状態です。
ロイターでは米国が2014年最大のリスクとする見解もあります。
http://p.tl/LXyQ

それが故に、日本がそれらの問題を収束させる方向に向かわないことは、
米国にはマイナスにしかなりません。


安倍首相は絶妙なバランスを取りながら、「日本の為に」立ち向かっているように、
私には映ります。その過程でもちろん光と影があると思います。米国も勿論、
Chiakiさんのおっしゃる通り、光と影があると思います。真実は果たしてどこに
あるのでしょうか。私もまだまだ勉強が足りませんが、真の愛国心を持ちたいものですね。

ブログや、海外生活頑張ってください!
T

Unknown さんのコメント...

こんにちは。コメントありがとうございました。はじめていただいたレスポンスに興奮しております!

たいへん思慮深いお返事をいただきましてありがとうございました。とても考えさせられました。「カーティス氏の発言には何らかの政治的意図がある」とおっしゃっていました。まったく無知でしたので、そんなこと考えもしませんでした。。。でもそうですよね。情報はその発信源と意図を確認してからではないと鵜呑みにするのは危険ですよね。私は最近やっと時事問題に興味を持って読み始めたところで、勉強不足なのが不安の種です。これからもっと読んで勉強していきたいと思っています。何かおすすめの本などありましたらぜひ教えてください。

「米国が戦争で経済を回してきた」ということ、私も実はちょっとそうじゃないのかなぁって思っていたので、同じ意見が聞けて嬉しかったです。この辺、もうちょっと読んだりしたいなーと思っています。

米国、日本、世界各国の思惑、光と影。(かっこいい表現ですね、光と影!)真実があるのだとすれば、私も見極めてみたいと思います。勉強不足な荒削りな意見を私の直感だけでつづるブログですがこれからもご愛読いただければ幸いです。またよろしかったらご意見をぜひ聞かせてくださいね。